前庭(ぜんてい)神経炎とはどのような病気ですか?
ご相談者様

知人が前庭神経炎という病気になりました。前庭神経炎とは、いったいどんな症状が出る、どんな病気なのでしょうか。
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前庭神経炎は、強いめまいや吐き気、嘔吐などの症状が生じる病気です。
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何かの病気がきっかけになって起こるものなのでしょうか?
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風邪などが原因になることが多いですね。
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風邪を引いた人が必ずしも前庭神経炎になるわけではないですよね。
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もちろんです。風邪によって前庭神経に炎症が生じたことによって起こるものです。
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前庭神経とは、どんなものですか?
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前庭神経は、バランスを司る神経のことです。内耳から脳に向かって伸びています。
一方で、聞こえを司る神経を蝸牛(かぎゅう)神経といいます。蝸牛神経も前庭神経と同様、内耳から脳に向かって伸びている神経です。 -
前庭神経炎は、蝸牛神経とは関連がないのでしょうか。
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ありません。ですから、前庭神経炎の場合、聞こえづらくなったり、耳鳴りがしたりといった症状は現れません。
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前庭神経炎の原因について、もう少し詳しく教えてください。
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先ほども簡単にご説明したとおり、前庭神経炎の原因のひとつに風邪があります。つまり、ウイルスに感染することで前庭に炎症が生じてしまうことが原因となります。
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ウイルスなどによって前庭神経に炎症が生じるということですが、そのメカニズムはどのようなものですか?
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実は、その原因はまだ明らかになっていないのです。風邪のウイルスが原因としても、なぜ特に前庭が炎症を起こすのか、かかる人とかからない人がいるのはなぜか、そういったことは詳しく判明していません。
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前庭神経炎の症状についてもう少し聞かせてください。先ほど、平衡感覚を司る前庭神経に炎症が生じることで、前庭神経炎になると、うかがいました。つまり、前庭神経がうまく機能しなくなるということは、平衡感覚が機能しなくなるということですね。
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その通りです。
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平衡感覚が機能しなくなると、どういった症状があらわれるのですか。まっすぐ立っていられないというようなことでしょうか?
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まず、強いめまいが生じます。
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めまいにもいろいろな種類がありますよね。
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前庭神経炎で起こるのは、「回転性のめまい」といわれるものです。
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回転性……。目の前が回っているようにみえるということでしょうか?
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読んで字のごとく、ぐるぐる回っているようにみえるめまいのことですね。「周囲がぐるぐる回る」「自分自身が回転している」「自分自身も周囲も回転している」……さまざまな感じ方があるようです。
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ぐるぐる回っては、気分が悪くなりそうですね。
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視界が激しく回るので、吐き気をもよおしたり、実際に嘔吐してしまったりする方もいます。
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そんなときはどうすればいいのですか? 原因がわからなければ、パニックになりそうです。
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驚いて緊急外来を受診する方もいらっしゃいますね。
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突然症状が現れるのですか?
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はい。突然症状が出るのが、前庭神経炎の特徴でもあります。
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ただ、回転性のめまいが出たからといって、必ずしも前庭神経炎だとは限らないのですよね。
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それが難しいところです。たとえば脳卒中も、めまいを伴う病気として知られていますよね。
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では、回転性めまいが生じて、前庭神経炎だと思っていたら、実は脳卒中だったというケースもあるわけですよね。
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そうなんです。脳卒中だった場合、命にかかわりますから、注意が必要です。特に高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病がある方は、まずは脳卒中が発症するリスクが高いといわれています。もしめまいが起こったら、まずは脳卒中を疑ってほしいと思います。
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脳卒中に特有の症状はありますか?
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頭痛や感覚障害、四肢麻痺、意識障害は、前庭神経炎では起こらない症状です。これらは、前庭神経炎と脳卒中を見分けるポイントになるかもしれませんね。
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そのほか、前庭神経炎と間違えられやすい病気はありますか?
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強いめまいということでいうと、メニエール病が似ているかもしれません。ただメニエール病と違う点は、難聴や耳鳴りが出ないことですね。
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なるほど、そうなんですね。では、今度は検査や治療について教えてください。前庭神経炎が疑われる場合、どんな検査が行われるのでしょうか?
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まず、「眼振(がんしん)」の評価が挙げられます。
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眼振とはどんなものですか?
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自分の意思とは関係なく、眼球が激しく動くことです。めまいが起きているとき、眼振があります。これを測定することで、めまいが起きているかどうかがわかります。
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眼振はどのようにして測定するのですか?
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フレンツェル眼鏡と呼ばれる厚い凸レンズ付きの眼鏡や、赤外線CCDカメラと呼ばれるものが用いられます。前庭神経の機能低下を確認するため、温度刺激試験(カロリックテスト)や前庭誘発筋電位を行うケースもありますね。
半規管の機能を評価するときは、「video head impulse test」と呼ばれる検査が実施されます。聴力検査によって聞こえに問題がないことを確認するものです。 -
前庭神経炎は、どのように治療するのでしょうか?
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特に治療を行わないこともあります。なぜなら、安静にしていれば1~3週間で自然回復することが多いからです。
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とはいえ、重い症状に苦しむこともあるわけですよね。
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あまりに症状が重い場合、点滴をしたり、吐き気止めを投与したりすることもありますね。症状が重いと、水分を摂取することすら困難になりますから。
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あまり薬は使わないのですか。
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基本的には、症状を抑えるための薬で対症的に投与しますね。ただ場合によっては、神経の炎症を抑えるためにステロイドホルモン剤を使うこともありますよ。
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では、入院したりするような病気ではないのですね。
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いえいえ、前庭神経炎のめまいはかなり強力なので、立っていられないという方も多くいます。その場合は症状が治まるまで入院していただきます。
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侮ってはいけないですね。しかし、命にかかわらない病気ということで安心しました。ありがとうございました。
まとめ
・前庭神経炎は、強いめまいや吐き気、嘔吐などの症状が生じる病気
・前庭神経炎で起こるのは、「回転性のめまい」
・脳卒中やメニエール病など前庭神経炎と似た症状の病気もあるため注意する