女性に多い片頭痛と、めまい・耳鳴りの関係とは
頭痛は、めまい・耳鳴りとともに起こることの多い症状です。
今回は、頭痛とめまい・耳鳴りの関係についてご紹介します。
めまいのかげに片頭痛
めまい・耳鳴りで当院にいらっしゃる女性の患者さんは、驚くほど高い割合で慢性頭痛に悩まされているか、慢性頭痛の経験者です。その割合はほぼ7割にのぼり、ほとんどが片頭痛です。
めまいや耳鳴りは片頭痛の症状の一つとして一緒に現れることもありますし、片頭痛の起こる「前兆」として現れることもあります。また、めまい・耳鳴りで来院された方を問診していると、かつてひどい片頭痛に悩まされていたことが判明することもあります。つまり、片頭痛はめまい・耳鳴りの大きな原因のひとつであり、関連性の強い症状と言えます。そうした片頭痛と関連しためまい・耳鳴りの症例を根本的に治すには、片頭痛としてしっかり治療することが大切だと思っています。
しかし、これらのことは近年の研究で分かってきたことです。従来、頭痛について専門科目が確立していなかったために、めまい・耳鳴りの多くに片頭痛が潜んでいることが見落とされてきたと考えられています。
たとえば、片頭痛の持病がある方は、ホルモン変調(月経)の際や、気圧変動(低気圧)の際、ストレスがかかったときなど、さまざまな状況で発作を経験します。
激しい発作を起こすと、救急外来や脳神経外科に運ばれて検査を受けることがありますが、「脳には問題がない」と、私たちのような耳鼻科の医者に回されてきます。
しかし、耳鼻科的に診ると、良性発作性頭位めまい症でもなく、メニエール病の疑いもないので、「耳に異常はない」と、神経内科や心療内科、あるいは婦人科に回すということをくり返してきたのではないかと思います。
片頭痛の発作は、脳の血管が広がって炎症を起こすことによるものだと考えられています。
血管が拡張する原因ははっきりしていませんが、片頭痛は圧倒的に女性に多いことから、女性ホルモンの影響があることはほぼ疑いありません。そのため、神経内科や婦人科に回されることがあったのです。
片頭痛は、そうやってさまざまな診療科目で「たらい回し」にされてきた可能性があります。
言い方を変えれば、現代医療はさまざまな分野で大きく進歩してきましたが、専門分化が進んだことで、逆に診療科目を超えた全人的医療がなおざりにされてきてしまったということでしょう。
30歳代女性の5人に1人が片頭痛に悩まされている
片頭痛に関しては、北里大学で教鞭を執られた坂井文彦教授(現埼玉国際頭痛センター長)らの疫学調査が、わが国で最も権威のある統計データとされています。
疫学調査によると、日本人の39%、およそ4割が、片頭痛を含む「慢性頭痛」に悩まされているということです。慢性頭痛は、大きく分けると「緊張型頭痛」「片頭痛」「群発頭痛」に分けられ、緊張型頭痛の人が最も多く、22%、およそ2200万人に当たります。その他の頭痛が9%で、群発頭痛は不明となっています。
それほど身近な病気なだけに、患者さんも「持病だからしかたない」と考えてしまいがちかもしれません。
ちなみにごく簡単に説明すると、それぞれの特徴は次のとおりです。
● 緊張型頭痛
長時間同じ姿勢でデスクワークを続けたときなどに、筋肉が緊張して起こる頭痛。頭が締め付けられるような痛み。
● 片頭痛
頭の片側あるいは両側に、脈に合わせたズキンズキンという激しい痛みが起こり、ひどくなると脈を打つ感じがなくなる。人によっては発作の前兆を感じ、頭痛とともに吐き気がしたり、実際に吐いてしまったりする。一般的には月1~2回、くり返し起こる。女性に多いのが特徴。
● 群発頭痛
明け方や床について1~2時間後の睡眠時に、突然、片側の目の奥にズキンズキンという激しい痛みが起こり、1~2時間続く。1~2カ月にわたる「群発期」の間、毎日発作をくり返すことから群発頭痛と呼ばれる。20歳代から30歳代の男性に多いのが特徴。
群発頭痛が男性に多いのに対し、片頭痛は女性に多い症状です。
では、片頭痛の人というのは、どれくらいいらっしゃるのでしょうか。
先述の疫学調査によると、対象者のうち、片頭痛の人は8・4%(女性では12・9%、男性は3・6%)でした。そこから、全国にはおよそ840万人、片頭痛の人がいるのではないかと推計されています。
やはり、片頭痛は女性に多く、男性の3・6倍にのぼります。そして、30歳代の女性では約20%が片頭痛に悩まされています。
年代別に見ると、女性は10歳代後半から20歳代に11~13%の人が片頭痛を発症し、30歳代でピークを迎えたあと、40歳代(約18%)、50歳代(約11%)、60歳代(約9%)と、ほぼ閉経期にかけて片頭痛の頻度が減っていきます。
今回は、片頭痛とめまいの関係についてご紹介しました。
頭痛に悩んでいらっしゃる方には、ぜひ知っておいていただきたいと思います。

渡辺医院院長 渡辺繁
東大病院耳鼻咽喉科助手、JR東京病院勤務を経て1988年に渡辺医院開業。日本耳鼻咽喉科学会専門医。日本耳鼻咽喉学会・日本めまい平衡医学会所属。