顎関節症が耳鳴りの原因になることもある?!
顎関節症と耳鳴り。
まったく関連性がなさそうに見える2つの症状ですが、原因不明とされた耳鳴りが、顎関節症の治療を行うことによって治まるケースは珍しいことではありません。
顎関節症は、顎の開閉や咀嚼(そしゃく)の際に痛みが発するだけでなく、耳を始めとした全身に影響を及ぼすことが分かっています。
本コラムでは、顎関節症が耳鳴りを引き起こす原因や治療法についてご紹介します。
顎の疾患である顎関節症が耳鳴りを引き起こす理由
なぜ顎関節症が耳鳴りを引き起こすのかというと、顎関節が耳の内側にある中耳や内耳が非常に近い位置にあるためで、ものを噛むことによって発生する刺激は、常に耳へと伝わっているからです。
中耳には、入ってきた音を増幅させて内耳へと伝える「耳小骨(じしょうこつ)」があり、内耳には中耳から伝わったきた音を電気信号に変えて脳へと伝達する「蝸牛(かぎゅう)」というカタツムリのような少し変わった形をした器官があります。
特に蝸牛はその役割からもわかる通り、多くの神経が集まっていることから、複雑で繊細な構造をしており、過度な刺激を受け続けると機能が低下することがあります。
顎関節症の方は噛み癖があることが多く、その場合、通常よりも強い刺激が耳に伝わりますので、耳鳴りや難聴といった症状が表れてしまうのです。
また、耳の中には平衡感覚を司る三半規管も存在しますので、顎関節症の症状の一つとしてめまいが起こることもあります。
耳鳴りの症状は人それぞれ
耳鳴りには、さまざまなタイプがあります。
まず、静かなところで感じる「シーン」という音です。これも耳鳴りと言われますが、誰にでも起こる現象なので、特に心配するようなものではありません。
聞こえる音のタイプで耳鳴りを分けると、低音性のものと、高音性のものがあります。
「ブーン」という低い音が聞こえる低音性耳鳴りは、ストレスがたまったときや、気圧が急に変わったときに起こりやすい症状で、あまり心配しなくてもよい症状です。
一方、「キーン」「ピーッ」といった高い音が聞こえる高音性の耳鳴りは、加齢や騒音の影響に伴って進みます。
こちらは、ひどくならないように、早めに治療を始めたほうがよい耳鳴りです。
慢性耳鳴り、突発性耳鳴りという区別もあります。慢性の耳鳴りは、ときどき耳鳴りが気になる状態が繰り返されるもの。
高齢の方に多く、たいていは難聴に伴って起こります。
一方、突発的に激しい耳鳴りが起こるのが突発性耳鳴り。
いずれも早めに治療するべきです。
耳鳴りが起こりやすい人の特徴は?
耳鳴りそのものは、健康な人にもよく起こるありふれた症状です。耳鳴りを経験したことのある人は、全人口の10~20%とも言われます。
さらに65歳以上の人になると、30%近くの人が耳鳴り経験者だという報告もあります。
耳鳴りに悩まされている人は、実際たくさんいますが、耳鳴りを感じている人の割合となると、必ずしもはっきりした数字があるわけではありません。
症状の性質上、耳鳴りを感じているかどうかは、基本的に本人にしか分からないからです。
また、常時耳鳴りに悩まされている人と、たまに気になるという人でも事情が違います。
一般に、耳鳴りがする人の割合は10~20%程度といわれていますが、もっと少ないかもしれませんし、もっと多い可能性もあります。
耳鳴りが気になって病院を受診しようとしたとき、顎関節症との関連を疑う方は、ほとんどいないのではないでしょうか。
しかし、顎関節症が耳鳴りの原因になることは珍しいことではなく、さらに、顎関節症は、耳鳴り以外にも、頭痛、首や肩・背中の痛み、腰痛、肩こり、味覚の異常、口が渇くといった口の中の不具合など、全身に影響を及ぼすことがある病気です。
耳鳴りで病院にかかり、耳に何の問題も見つからなかった場合は、顎関節症の可能性を疑うことをおすすめします。

渡辺医院院長 渡辺繁
東大病院耳鼻咽喉科助手、JR東京病院勤務を経て1988年に渡辺医院開業。日本耳鼻咽喉科学会専門医。日本耳鼻咽喉学会・日本めまい平衡医学会所属。