耳鳴り研究の歴史~19世紀以降~
耳鳴り研究の歴史~ルネッサンス時代~では、耳鳴りの治療法として耳介のマッサージや手術などのさまざまな方法が試されたこと、そして電気治療が考案され、実際に耳鳴りの軽減が認められたことなどをご紹介しました。
続いて、19世紀以降の耳鳴り研究に歴史についてご紹介していきましょう。
耳鳴りの3分類を提唱したイタール
19世紀の耳鳴り治療において注目すべきは、ジャン・イタールの研究です。
イタールは、高度難聴児童への言語訓練をライフワークとしており、耳について幅広い研究を行った研究者。
耳鳴りについては、耳鳴りを真性耳鳴り、偽性耳鳴り、観念性耳鳴りの3つに分類し、治療法としては瀉血(しゃけつ:血を出す方法)を提唱しました。
イタールの言う真性耳鳴りは、現在の他覚性耳鳴り(耳鳴り患者だけでなく、他の人にも聞こえる耳鳴り)、偽性耳鳴りと観念性耳鳴りは自覚性耳鳴り(患者にしか聞こえない耳鳴り)にあたります。
イタールは、偽性耳鳴りと観念性耳鳴りの原因は難聴であると指摘し、その治療法としては局所的な、もしくは全身の抗けいれん療法がよいとし、それでも効果がない場合は遮蔽法(しゃへいほう:大きな音を聞く方法)を行うべきだとしています。
同時期には、安静療法や温泉療法など、耳鳴りの心理学的アプローチも提唱されました。
少しずつ、20世紀以降の耳鳴り治療に近づいてきているのがわかるでしょう。
20世紀の耳鳴り治療における3つの発見
20世紀になると、外科療法や薬物療法が多くみられるようになりました。
20世紀に入って進歩したものとして、3つに分けてご紹介しましょう。
1.補聴器の応用
長年にわたって提唱されてきた遮蔽法ですが、1940年には、耳鳴りの中には、どんな遮蔽音をもってしても遮蔽できないものがあることが報告されました。
1947年には、耳鳴りの制御のために補聴器を応用する方法が示されました。
補聴器をつけることで耳鳴り以外の音の聞こえがよくなり、耳鳴りから意識をそらすことができるという原理です。
これは、現在につながる部分といえるでしょう。
2.心理的測定法の確立
耳鳴りの評価方法として、心理的測定法が確立されました。
現在耳鳴りの検査として用いられている「ピッチマッチ検査」(耳鳴りのピッチを調べる検査)と「ラウドネスバランス検査」(耳鳴りの音の大きさを調べる検査)は、実はこのころに開発された検査がベースとなっているのです。
3.TRTの開発
現在の耳鳴り治療の定番となっているTRT療法が開発されたのも、実はこのころです。
TRT療法とは、機械を用いて、静かな雑音を流し続け、耳鳴りをはじめとした雑音が聞こえる状態に慣れるという治療法です。
耳鳴りを根本的に治療し、消失させることができる方法ではないとはいえ、今なお実施されている治療法です。
以上のように、19世紀以降の耳鳴り研究は、現在の耳鳴り研究・治療につながっているところが多くあります。
古くから人間は耳鳴りに苦しめられ、ストレスを感じ、その改善のために努力してきたのです。
このことからわかるように、耳鳴りは決して「気のせい」ではないのです。少しでも耳鳴りが気になったら、医療機関に相談し、軽減のための手立てを探ってほしいと思います。

渡辺医院院長 渡辺繁
東大病院耳鼻咽喉科助手、JR東京病院勤務を経て1988年に渡辺医院開業。日本耳鼻咽喉科学会専門医。日本耳鼻咽喉学会・日本めまい平衡医学会所属。