実は珍しい症状ではない!若い女性を中心に誰にでも起こりうる耳鳴りと難聴
耳鳴りや難聴という症状を経験したことがある方は、決して少なくないのではないでしょうか。
これらは、日常生活の中で経験することの多い症状です。
静かな場所でキーンと音が響いているように感じたり、ライブハウスで大音量の音楽を聞いた後に耳が聞こえにくくなったりした経験がある方も多いでしょう。
耳鳴り・難聴患者は増加傾向にある
こうした耳鳴りや難聴の症状の多くは、一時的なものです。
症状が消えず、長引いてしまうことはほとんどありません。
体調不良によって耳鳴りや難聴が生じることがあったとしても、体調が回復すれば、それとともに症状も消えるのが一般的です。
それにもかかわらず、近年、一時的でない耳鳴りや難聴の症状を訴える人が増えています。
厚生労働省の国民生活基礎調査の結果を見てみましょう。
人口1000人当たり、耳鳴りを訴える人の数は、1995年では21.0人でした。
それが2004年には、26.7人へと増えています。
同じく人口1000人当たり、難聴を訴える人の数は、1998年には28.5人でした。
6年後の2004年には、29.5人になっています。
耳鳴り・難聴ともに、その症状に苦しむ人の数が増えていることが明らかになっているのです。
なぜ若い女性の難聴・耳鳴りが増えているのか
日本ではすでに超高齢社会となっており、高齢者の割合が急速に増えています。
耳鳴り・難聴はもともと高齢者によくみられる症状ですから、超高齢社会となった日本でこれらの患者が増えていることも、当然といえば当然のことでしょう。
しかし一方で、20歳から30歳くらいの若い女性の耳鳴り・難聴患者も増えています。
彼女らの多くは、頭痛や肩こり、不眠、体の倦怠感などといった、耳鳴り・難聴以外の症状もあわせて訴えるケースが多く見られます。
その原因はどこにあるのでしょうか。
実は、若い女性に耳鳴り・難聴が増えている理由は、まだはっきりとはわかっていません。
耳鳴り・難聴と言ってもその原因は様々あるだけでなく、検査をしても異常が見つからないケースも多いからです。
明らかな原因として挙げてもよいのは、女性の社会進出が進んだことでしょう。
仕事におけるストレスや疲労が重なることで、体調を崩しているというわけです。
ストレスや疲労が原因の場合、その源を断ち切れば症状は改善します。
ただし、症状があまりにも長く継続したり、繰り返し生じたりするときには、まずは耳鼻咽喉科を受診するようにしてください。
耳鳴りとは
ここで、耳鳴りと難聴について簡単にご説明しておきましょう。
耳鳴りには2種類あります。
ひとつが「他覚的耳鳴り」で、他の人にも聞こえる耳鳴りです。
もうひとつが「自覚的耳鳴り」で、耳鳴り患者にしか聞こえない耳鳴りです。
一般的に「耳鳴り」というとこちらを思い浮かべるでしょう。
耳鳴りで聞こえる音の種類や大きさは様々です。
クリック音のような音が聞こえることもあれば、キーン、ジーなどといった音が繰り返し聞こえるケースもあります。
高い音や低い音、低い音、変化する音など、様々な耳鳴りがあります。
耳鳴りの原因もまた、人によって様々あります。
一例としては、工事の騒音や耳の病気、投薬の副作用、神経学的副作用などが挙げられます。
耳鳴りの治療としては、補聴器を使った治療があります。
これは、耳鳴り以外の音をしっかりと聞こえるようにすることで、耳鳴りの音そのものが気にならないような状態をつくり、耳鳴りの苦痛を軽減することをねらうものです。
また同じ原理で、耳鳴り以外の音を一定の音量で流し続ける器具を使って治療することもあります。
難聴とは
難聴とは、特定の音が聞こえなくなる症状のことです。
特に多くみられるのは、女性の声や子どもの声など、比較的高い音が聞き取れなくなる難聴です。
難聴にも、いくつかの種類があります。
ひとつが、コンサートの後や大きな拍手にさらされた後、ヘッドホンをつけた後など、大きな音を聞いた後に起こる一時的な難聴です。
もうひとつが、聞き取りの器官が損傷を受けたことによって起こる永続的な耳鳴りです。
まとめ
耳鳴り・難聴といった症状の多くは、命を奪うようなものではありません。
ただし、まれに生命にかかわるような病気の症状のひとつとして、また予兆のひとつとして現れていることがあります。
また、生命にかかわるような病気でないとしても、耳鳴り・難聴は大きなストレスになります。
日常生活に支障をきたすケースも多くありますし、一見してわからない症状なので、誰にもわかってもらえないと孤独な気持ちになることもあるでしょう。
症状が無事に消えたとしても、再発するかもしれないという新たなストレスを抱えることになってしまいます。
いままで耳鳴り・難聴は完治の難しい症状とされていました。
しかし近年では、医療の進歩にともない、その状況も徐々に改善されつつあります。
すこやかな毎日を送るためにも、耳鳴り・難聴の自覚症状がある方は、決してあきらめず、まずは医療機関に相談することを強くおすすめします。
たとえ治療を受けずとも、耳鳴り・難聴について理解を深めることは、大いに意味があることなのです。

渡辺医院院長 渡辺繁
東大病院耳鼻咽喉科助手、JR東京病院勤務を経て1988年に渡辺医院開業。日本耳鼻咽喉科学会専門医。日本耳鼻咽喉学会・日本めまい平衡医学会所属。