【前編】耳鳴りがしたら押さえておきたい耳鳴りと脳の関係
耳鳴りを克服する早道は、耳鳴りの治療に取り組んでいる耳鼻科医に相談し、カウンセリングを受けることです。
本コラムでは、前編と後編に分けて、カウンセリングで医師が耳鳴りについて説明することをお話ししたいと思います。
他のコラムで述べてきたことのおさらいも兼ねていますが、より理解を深めるためにおつきあいください。
消えない耳鳴りを克服するには、まず耳鳴りを正しく理解することが大切です。
その前提として、「脳」がどのように音を聞いているのかを理解しておきましょう。
私たちの「脳」は一部の音だけを選んで聞いている
人間の脳は、高度な思考をつかさどる大脳皮質に表面を覆われています。
私たちが普通にイメージする「脳」は、これでしょう。
しかし、大脳皮質の下には、生きるためのさまざまな機能を受け持つ領域がたくさん広がっています。
正確な表現ではありませんが、大脳皮質の下にある領域を、「皮質下」といいます。
私たちの脳には、大脳で「意識」する重要な音以外にも、たくさんの音が届いています。
しかし、生活に不要な音は、皮質下で無意識のうちに処理され、意識に上らなくなっているのです。
これが、正常な聴覚の働きです。
耳鳴りは「脳」が信号の変化に戸惑っている状態
耳鳴りとして感じる音は、ふだんは気にならないだけで、常に脳に届いています。
耳鳴りが起こるというのは、そうした音が気になりだすことなのです。
私たちの聴覚中枢は、先ほど皮質下と表現した大きな領域にある「視床」という器官(間脳の一部)から、大脳皮質の「聴覚野」へつながっています。
音の信号は、この聴覚野に伝わって初めて意識されます。
いま、蝸牛でちょっとしたトラブルが発生し、音の信号が微妙に変わったとしましょう。
視床が今までと違う信号を送るので、大脳皮質の聴覚野が、それを「何か危険な音かもしれない」と認識する可能性があります。
一方、皮質下の「大脳辺縁系」という領域(視床もそこに含まれます)は、心の動きや記憶をつかさどる部分です。
そして、ここは「自律神経系」の中枢である視床下部にも強い影響力を持っています。
これらの中枢が、異常な信号からストレスを受けると、耳鳴りに伴うさまざまな症状が出現します。
それでも脳には、同じ刺激を受けているうちに、それに「慣れる」という特性があります脳が耳鳴りの音に慣れると、その音は気にならなくなるのです。
後編では、耳鳴りと脳の関係について、耳鳴り治療についても触れながらご説明します。

渡辺医院院長 渡辺繁
東大病院耳鼻咽喉科助手、JR東京病院勤務を経て1988年に渡辺医院開業。日本耳鼻咽喉科学会専門医。日本耳鼻咽喉学会・日本めまい平衡医学会所属。