耳鳴り治療は患者さんの「つらさ」を的確に評価することが大事
耳鳴りがつらくて仕方ない。でも耳鳴りは自分にしか聞こえないものだから、誰にもそのつらさをわかってもらえず、いっそうつらい……耳鳴り患者さんからよく聞く悩みです。
「耳鳴りのつらさを数値で伝えられればいいのに」と、思ったことはありませんか?
少し専門的な話になりますが、実は「耳鳴り苦痛度の評価法」というものがあります。
その患者さんの耳鳴りがどの程度のものかを表す指標です。
今回は、耳鳴り苦痛度の評価法についてご紹介します。
目次
耳鳴りの自覚的苦痛度とは
耳鳴り苦痛度の評価は、もともと、異なる文化、言語、医療制度を持つ国と国の間で、耳鳴り研究を比較するために生まれました。
評価項目にはいくつかのパターンがありますが、最も広く使われているのはTHI(Tinnitus Handicap Inventory)です。
英語圏のみならず、複数の言語に翻訳されて使われています。
加えて、より簡素な調査として、VAS(Visual Analog Scale)という方法もあります。
耳鳴りの自覚的苦痛度を測定する項目(THI)
THIは、25項目からなります。それぞれの項目について「よくある(4点)」「たまにある(2点)」「ない(0点)」の中から選び、その得点を足していく形式です。得点を足すと0~100点になりますが、100点に近ければ近いほど、つまり得点が高ければ高いほど、耳鳴り苦痛度が高いものと判定されます。
THIの邦訳版の項目としては、下記の25点があります。
・耳鳴りのために物事に集中できない
・耳鳴りの音が大きくて人の話が聞き取れない
・耳鳴りに対して腹が立つ
・耳鳴りのために混乱してしまう
・耳鳴りのために絶望的な気持ちになる
・耳鳴りについて多くの不満を訴えてしまう
・夜寝るときに耳鳴りが妨げになる
・耳鳴りから逃れられないかのように感じる
・あなたの社会活動が耳鳴りにより妨げられている(例えば、外食をする、映画を観るなど)
・耳鳴りのために挫折を感じる
・耳鳴りのために自分がひどい病気であるように感じる
・耳鳴りがあるために日々の生活を楽しめない
・耳鳴りが職場や家庭での仕事の妨げになる
・耳鳴りのためにいらいらする
・耳鳴りのために読書ができない
・耳鳴りのために気が動転する
・耳鳴りのために家族や友人との関係にストレスを感じる
・耳鳴りから意識をそらすのは難しいと感じる
・耳鳴りのために疲れを感じる
・耳鳴りのために落ち込んでしまう
・耳鳴りのために体のことが心配になる
・耳鳴りとこれ以上付き合っていけないと感じる
・ストレスがあると耳鳴りがひどくなる
・耳鳴りのために不安な気持ちになる
耳鳴り苦痛度のグレードに応じた治療
耳鳴り苦痛度の評価は、大きく4つのグレードに分けられ、そのグレードに応じて治療が行われます。
【グレード1】(THI値0~18)
耳鳴りについて簡単な説明が行われます。
この段階では経過観察になることが多いです。
【グレード2】(THI値20~48)
グレード1と同様、耳鳴りについて簡単な説明が行われます。
この段階でも経過観察となることが多いのですが、患者さんの希望があれば音響療法などの追加の治療が行われます。
【グレード3】(THI値50以上)
耳鳴りについて詳しく説明した上で、音響療法が提案されます。
患者さんが家庭でできる音響療法を希望した場合、まずはそちらで経過観察をします。
補聴器などのツールを用いることを希望する場合で、補聴器で対応可能な周波数領域に難聴がある患者さんであれば、補聴器を用いた音響療法が提案され、補聴器を試聴してもらいます。
補聴器のみの希望でない場合には、サウンドジェネレータと補聴器との併用、もしくはサウンドジェネレータの試聴が提案されます。
難聴の領域が補聴器で対応可能でない場合、また難聴でない場合には、サウンドジェネレータが提案されます。
【グレード4】(THI値50以上で、うつ傾向がある方)
耳鳴りの詳しい説明が行われます。
次に必ず、精神神経科もしくは心療内科を紹介し、うつ病の治療を受けることが提案されます。
その後、患者さんの希望によって、音響治療などの耳鳴り治療が提案されます。
以上のように、耳鳴りは苦痛度によって治療の流れが異なります。
まずはご自身の苦痛度をしっかり評価し、そのグレードに基づいた治療をしていきましょう。