耳鳴り発生の原因と、苦痛を感じるメカニズムを知ろう
耳は外耳・中耳・内耳に分けられます。
耳鳴りは、この3つのうち、どこで、なぜ発生するのでしょうか?
音を拾う外耳でしょうか、それとも入ってきた音を脳へと伝える中耳や内耳でしょうか?
また、普段さまざまな音を耳にしているのに、なぜ耳鳴りを苦痛に感じてしまうのでしょうか?
ここでは、耳鳴りの発生と苦痛のメカニズムについてご紹介します。
耳鳴りの原因の大半は内耳にある
耳鳴りの発生源はいろいろ考えられますが、最も多いのが内耳といえるでしょう。
内耳にあるカタツムリのような形をした「蝸牛(かぎゅう)」という器官は、外耳から入ってきた音を脳へと伝達する役割を担います。
蝸牛が正常に機能していると、耳から入ってきた音を電気信号に変換し、それが脳に届いて、音として認識されます。
蝸牛が正常に機能しているときは、脳内の音の調節機能が働き、耳鳴りは聞こえません。
ところが、蝸牛に障害が起きると、調節機能がうまく働かず、普段は脳が認識しないはずの音が耳鳴りとして聞こえてしまうというわけです。
耳鳴りばかりを不快に感じるのはなぜ?
普通の音は不快ではないのに、耳鳴りを不快だと感じるのはなぜでしょうか。
その答えは、脳にあります。
まずは耳鳴りを不快に感じるメカニズムを知っておきましょう。
脳は不要な音をカットしている
脳の中でも苦痛を感じるのは、「大脳辺縁(へんえん)系」と「自律神経系」です。
大脳辺縁系は、不安やイライラ、怒りなどといった感情をつかさどる部分で、自律神経系は、血圧や汗、内臓の働きなどといった自分の意思でコントロールできない身体の働きをつかさどる部分です。
普段、ヒトは耳から入ってくるすべての音を認識しているわけではありません。
必要のない音は、脳に届くまでのあいだにカットされているのです。
たとえば雑踏を歩いているとき、周りの人の話し声はほとんど耳に入っていないでしょう。
それでも、雑踏のどこかからあなたを呼ぶ声がしたら、「聞こえる」はず。
必要な音は認識され、不要な音は切り捨てられているのです。
不要な音が聞こえるから「耳鳴り」は不快になる
耳鳴りを苦痛に感じるのは、この不要な音が継続的・断続的に鳴り続けているからです。
苦痛だと思えば思うほど過敏に反応してしまい、耳鳴りが増幅するように感じます。
いったん耳鳴りを不快だと思うと、大脳辺縁系が刺激され、さらなる不安や不快、苛立ちを感じるというわけです。
さらには、大脳辺縁系が自律神経系を刺激し、いっそう耳鳴りを不快に感じるのです。
この悪循環を断ち切る方法として、薬の服用や音響療法、心理療法などいくつかの治療法があります。
耳鳴りと難聴、その関係性とは?
耳鳴りの要因となり得る内耳の病気は、老人性難聴、騒音性難聴、突発性難聴といった難聴全般や、メニエール病が挙げられます。
これらの病気は、蝸牛に何らかの障害が起こっていることがほとんどです。
蝸牛に障害が発生すると、音を電気信号に変換する能力が弱くなり、脳に届けられる電気信号が減少し、音が聞こえ辛くなってしまうのです。
脳は何とか音を聞き取ろうとして、音への感度を高めようとします。
そのために、耳鳴りが聞こえてしまうようになるのです。
このように、耳鳴りと難聴は、どちらも蝸牛の障害によって引き起こされる症状です。
耳鳴りを訴える人は、難聴を伴っていることが多く、両者は非常に密接な関係にあるといえるでしょう。
耳鳴りや難聴の症状を感じた際には、ひとりで悩まず、耳鳴り外来のある病院や、専門の耳鼻科で医師に相談してみてください。

渡辺医院院長 渡辺繁
東大病院耳鼻咽喉科助手、JR東京病院勤務を経て1988年に渡辺医院開業。日本耳鼻咽喉科学会専門医。日本耳鼻咽喉学会・日本めまい平衡医学会所属。