【後編】耳のしくみとそれぞれの異常に伴う耳鳴り・難聴
前編に続き、耳が原因になって起こる難聴や耳鳴りについて解説していきます。
高齢者の耳鳴りの多くは「難聴」が原因
年齢を重ねると、体のあちこちに機能の低下が目立ってきます。たとえば老眼は40代の後半から増えるといいますが、耳に関しても例外ではありません。
50代を過ぎて、「キーン」という高音の耳鳴りがする方は、難聴が進み始めている可能性があります。一般に60歳ぐらいを過ぎてから「耳が遠くなった」と自覚する方が多いようですが、この老化現象による難聴を「老人性難聴」といいます。
高齢の方に起こる耳鳴りの多くは、この「老人性難聴」によるもので、音を電気信号に変える内耳の機能が低下してくることが原因です。
症状としては、難聴と耳鳴りが同時に起こるのですが、初めのうちは難聴に気づかずに耳鳴りだけを訴える人も少なくありません。
耳鳴りは両耳に起こり、特徴は「キーン」という高い音。両耳に高音の耳鳴りを感じたら、一度耳鼻科を受診することをおすすめします。
ただし、老人性難聴に伴う耳鳴りは、完治は極めて難しいものです。耳鳴りに慣れ、気にしないで生活できるようにする治療法が、現在の主流になっています。
女性に多い「メニエール病」
メニエール病は激しいめまいを特徴とする病気で、耳鳴りや難聴が一緒に起こることが多い病気です。原因は、内耳のリンパ液が増えて「水ぶくれ」のようになってしまうことです。専門的には「内リンパ水腫」という状態です。
内耳にある蝸牛(かぎゅう)の中は、音の振動を伝えるリンパ液で満たされていますが、蝸牛管の中にあるのが「内リンパ液」、その外側(前庭階と鼓室階の中)は「外リンパ液」として区切られています。
メニエール病は、強いストレスを抱えた若い女性に多い病気です。ストレスなどを引き金に内リンパ液が増えてしまい、外リンパ液との仕切りが圧迫されるとメニエール病の症状として現れます。水ぶくれの起こり方によっては、めまいがなく、耳鳴りや難聴だけを感じることもあります。
気になる人は、なるべく早めに耳鼻科で診察を受けましょう。症状が起きたり収まったりを繰り返すことが多いメニエール病ですが、適切な薬の処方を受けて症状を抑え、ストレスの原因や生活習慣を見直していくことで改善が期待できます。
耳垢が外耳道を塞ぐことによって起きる耳鳴り
おかしなことを聞くようですが、皆さんは「耳掃除」はお好きでしょうか。
実は、耳の掃除をしすぎると、かえって病気のもとになることがあるのをご存知ですか? アメリカの学会(耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会)が2017年1月に発表した最新のガイドラインでも、「耳掃除はやり過ぎないように」と注意が促されています。
その理由は、耳垢(みみあか)で耳の穴(外耳道)がふさがってしまう「耳垢栓塞」を起こしてしまう危険があるからです。
耳垢は、皮脂腺と耳垢線からの分泌物に、はがれた皮膚やチリが混ざったものですが、それが大きくなって、耳の穴をふさいでしまった状態です。耳掃除のとき、誤って耳垢を奥に押し込んでしまって起こることがあります。
耳垢栓塞になると耳がつまった感じがして、耳鳴りがしたり、音の聞こえが悪くなったりします。耳の奥で耳垢が化膿して、痛むようになることもあるので、早めに耳鼻科で処置を受けるべきです。
とはいえ、耳垢栓塞に伴う耳鳴りは、内耳のトラブルが原因ではないので、適切な治療を受ければすぐに解消します。
痛みがなく放置しがちな「滲出性中耳炎」

中耳炎という病名は、子どものときに聞いたことがあるでしょう。皆さんがご存じの「急性中耳炎」は、鼓膜の奥の空間(中耳)にばい菌が入って化膿してしまう病気です。
同じ中耳炎でも、「滲出性中耳炎」は中耳に滲出液がたまって起こるものです。耳がつまった感じがして、耳鳴りや難聴が起こります。
滲出性中耳炎の主な原因は、中耳にある「耳管」のつまりです。耳と鼻をつないでいるこの管は、物を食べたりつばを飲んだりするときに開いて、中耳の中の気圧を外の気圧に合わせて調整しています。
この耳管がつまって中耳の気圧が下がると、周りの粘膜から体液がにじみ出てきて、中耳にたまってしまいます。それが滲出性中耳炎です。症状が軽いと、「病院に行くほどではない」と考えがちですが、きちんと耳鼻科を受診してください。放置しておくと、鼓膜が癒着する「癒着性中耳炎」など、重症化することがあります。
滲出性中耳炎による耳鳴りも、きちんと治療をすれば解消します。ただし、滲出性中耳炎は長引くことが多く、根気強く治療を続ける必要があるでしょう。
外リンパ液が中耳に漏れ出す「外リンパ瘻」
「外リンパ瘻」は、あまり知られていないにも関わらず比較的ありふれた病気です。どういう病気かというと、内耳の蝸牛に穴(瘻)が空いて、外リンパ液が中耳に漏れてくることで起こります。

蝸牛に穴が空くきっかけも、ほとんどが日常生活でのありふれた出来事です。強く鼻をかんだ、管楽器を吹いた、ジェットコースターに乗ったなど、思いがけないことが原因になって起こります。
症状も多様で、難聴や耳のつまった感じ、耳鳴り、めまいが起こりやすいほか、胃のムカつきや、嘔吐、冷や汗、頭痛、気分の不調、うつ状態などが挙げられ、人によってどの症状が起こるかは分かりません。中には外リンパ瘻があっても、自覚症状のない人もいます。
外リンパ瘻に伴う耳鳴りでは、「キーン」「ザーッ」といった音のほか、水が流れるような「サーッ」という音や、水の中で空気が「ポコポコ」いうような音が聞こえることがあります。
外リンパ瘻の治療は、通常、安静にして蝸牛の穴がふさがるのを待つことですが、手術が必要になることもあります。
耳が原因となって起こる難聴や耳鳴りには、以上のようなものがあります。
まずは正しい知識を身につけ、医師の診断を受けるようにしてください。

渡辺医院院長 渡辺繁
東大病院耳鼻咽喉科助手、JR東京病院勤務を経て1988年に渡辺医院開業。日本耳鼻咽喉科学会専門医。日本耳鼻咽喉学会・日本めまい平衡医学会所属。