片頭痛の治療と予防に用いる薬について知っておこう
「めまい・耳鳴りの原因のひとつ「片頭痛」は市販の薬では治らない?」の記事で述べたように、片頭痛は市販の薬で治すことはできないと考えてください。
では、片頭痛を治すにはどのような薬を用いればいいのでしょうか。
今回は、片頭痛の治療と予防に用いる薬についてご紹介します。
目次
トリプタン製剤の登場
片頭痛が起こるメカニズムは、まだはっきりと解明されてはいませんが、脳血管の拡張と、三叉神経からの神経ペプチド(痛み物質)の放出が発作にからんでいます。
血管説では、脳内物質セロトニンの量が変化し、血管を激しく収縮、拡張させると解釈され、三叉神経説では、ストレスなどの影響を受けた三叉神経から、神経ペプチドが放出され、それによって血管が拡張すると説明されています。
いずれにしても、脳内の神経がなんらかの刺激を受けて血管に作用し、血管が拡張するとともに、炎症が急速に広がっていくと考えられます。
この異変が脳を刺激し、さまざまな感覚が過敏になるとともに、吐き気や嘔吐などを引き起こします。
片頭痛の治療には、発作時のつらい症状を緩和する「急性期の治療」と、日頃から続けて発作を起こりにくくしたり、発作がひどくならないようにするための「予防療法」があります。
片頭痛の治療は基本的に薬物療法です。
そして、発作が起こったときに使う薬と、予防的に使う薬は違います。
病院で片頭痛と診断されると、発作のときに使う「急性期治療薬」と、ふだんから継続して使う「予防療法薬」を処方されます。
こうした方法が採れるようになったのは、1990年代から「トリプタン製剤」という優れた頭痛薬が使えるようになったからです。
トリプタン製剤は、血管の内壁にあるセロトニン受容体(セロトニンに反応する物質)に作用し、拡張した血管を収縮させます。
また、三叉神経に作用して、炎症を引き起こす神経ペプチドの放出を抑制します。
これによって、片頭痛の症状が抑えられるのです。
発作が起こったときに使う薬
急性期の治療薬は、トリプタン製剤が基本になります。
トリプタン製剤には大きな特徴があって、「あっ、発作が来るな」と、自分なりの前兆を感じたときにうまく服用すると、発作がひどくなるのを抑えてくれます。
しかし、発作がひどくなってから、つらさを和らげようと思って服用しても、十分な効果を発揮してくれません。
トリプタン製剤を効果的に使うには、服用するタイミングが大事です。
医師の指導をよく聞いて覚え、うまいタイミングで使ってください。
現在、わが国で使えるトリプタン製剤は、スマトリプタン(商品名イミグラン)、ゾルミトリプタン(商品名ゾーミッグ)、エレトリプタン(商品名レルパックス)、リザトリプタン (商品名マクサルト)、ナラトリプタン (商品名アマージ)の5剤です。
私自身は、主にマクサルト、アマージを処方しています。
予防的に使う薬
原則として、医師から予防療法を薦められるのは、片頭痛の発作が月に2回以上起こるような患者さんです。
ただ、片頭痛歴の長い患者さんには、かなり頭痛がこじれている方が多くいらっしゃいます。
当院では、実質的にほとんどの患者さんに予防療法を実施しています。
予防療法は、片頭痛の発作を抑え込むというよりは、片頭痛に合併している周辺症状を改善し、発作を起こしにくくなるよう体調を整えることが目的です。
特に事情がなければ3~6カ月以上継続するのが普通で、その間に、発作の頻度や程度が抑えられ、患者さんが片頭痛とうまくつきあっていく自信が得られることを目指します。
治療が効果を上げているようなら、時期を見て少しずつ薬を減らしていき、可能であれば予防治療を終了します。
片頭痛の予防治療に、私は次のような薬を用いています。
カルシウム拮抗薬……ロメリジン(商品名ミグシス)
血圧の薬として開発されたロメリジンは、代表的な片頭痛予防薬でもあります。
抗うつ薬……アミトリプチリン(商品名トリプタノール)
抗うつ薬が片頭痛の予防療法に役立つのは、片頭痛の発作と関連の強い神経伝達物質セロトニンの代謝をよくするからです。
β遮断薬……プロプラノロール(商品名インデラル)など
頻脈気味の患者さんに処方します。
ただし、リザトリプタン(マクサルト)との併用は不可なので、ほかのトリプタン製剤を選ぶ必要があります。
漢方薬……苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)など
苓桂朮甘湯は、めまい・耳鳴り・頭痛などに効果がある薬で、どちらかというと体力の弱い方に向いています。
めまい・耳鳴りには漢方薬が効果的なことも多くあります。
比較的体力のある方の肩こり、めまい・耳鳴りに用いられる桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)や、体力的に普通の方なら体内の水はけをよくする五苓散(ごれいさん)などを薦めていらっしゃる先生もいます。
利尿薬……イソソルビド(商品名イソバイド)
メニエール病の疑いがある患者さんに用いて内耳の水はけをよくする薬ですが、片頭痛でめまいの多い患者さんにも有効と考えます。
片頭痛の患者さんにはめまいが多いことから処方していますが、おそらく、内耳の状態を整えることで聴覚が過敏になることや、めまいが抑えられるのではないかと思います。

渡辺医院院長 渡辺繁
東大病院耳鼻咽喉科助手、JR東京病院勤務を経て1988年に渡辺医院開業。日本耳鼻咽喉科学会専門医。日本耳鼻咽喉学会・日本めまい平衡医学会所属。