「怖い耳鳴り」と「怖くない耳鳴り」の違い
多くの場合、耳鳴りは特段の心配が必要ないものです。
ただし、まれに治療が必要であったり、恐ろしい病気の前兆であったりする耳鳴りもあります。
「怖い耳鳴り」と「怖くない耳鳴り」について知っておきましょう。
市販の薬で症状は根治しない

ドラッグストアなどに行くと、処方箋なしで耳鳴り、めまいの薬も入手できます。そうした薬がよく効くなら、それでもよいでしょう。
ただし、耳鳴り、めまいには、それほど怖くない一過性の症状だけでなく、しっかりした治療を必要とする病気が原因になって起こっている場合もあります。
しばしば耳鳴りやめまいを繰り返しているのに、軽く見て、市販薬で対処していると、症状が悪化することも多いので、注意が必要です。
あまり効果のない薬を飲み続けていると、「もっと効くように」と服用量を増やす人がいます。
これは、頭痛持ちの女性に多いパターンです。
そのようなケースは、薬が効きにくくなって症状が悪化し、さらに薬を飲む量を増やすといった悪循環に陥りがちです。年配の患者さんには、「昔、よく頭痛に悩まされて市販薬で対処していた」結果、「頭痛はもう治ったけれど、耳鳴りやめまいがする」と訴える方が非常に多くいます。
症状をこじらせて治りにくくなる前に、専門医の診察を受けて「適切な薬の処方」を受けてほしいと思います。
舌がもつれたり二重に見えたりしたら注意
動脈硬化が進行して起こる脳卒中(脳梗塞と脳出血)は、治療が遅れると最悪の場合、死に至る危険のある病気です。
ケースとしては非常にまれですが、耳鳴りは、その脳卒中に伴って起こる場合もあります。つまり、これが本当に「最も怖い耳鳴り」なのです。
もちろん、脳卒中の発作が起こった場合は、耳鳴りだけを感じるということはありません。めまいがしてまっすぐ歩けない、立っていられなくなるといった症状も現われます。ほかにも、次のような症状に気づいたら、早く病院(脳神経外科)に行ってください。

・手足がしびれて、動かなくなる
・舌がもつれて、うまく話せなくなる
・物が二重に見える
・頭痛や吐き気、嘔吐
・意識が薄れていく
そして、本格的な脳卒中の発作が起こる前に、前兆として耳鳴り、めまいが起こることもあります。それをきっかけに危険に気づけたら、何よりだと言えます。
絶対に知っておきたい 耳鳴りの危険度
耳鳴りとめまいは、耳鼻科医が患者さんから訴えを聞くことの多い症状です。この2つの症状は、いっしょに起こることが多いだけでなく、大きな共通点があります。
それは、「他者からわかりにくい」ということです。そのため、患者さんはひとりで不安を抱えることが多いのです。
最も怖いのは脳卒中に伴う耳鳴りで、多くの場合、めまいも伴います。実は、これは耳鼻科の医師でもめったに診る機会がないケースです。しかし、絶対に見逃してはいけない病気なので、目の前の患者さんが「脳卒中ではないこと」をまず判断(鑑別)しなくてはなりません。
脳卒中でなければ、命の心配はほぼありません。ただし、耳鳴りは難聴に伴って起こることが多く、放置していると耳が聞こえなくなるリスクがあります。
多くの耳鳴りに過度な心配は要らないこと、ただし、早めに耳鼻科に行くべきこと。この点を理解してください。

渡辺医院院長 渡辺繁
東大病院耳鼻咽喉科助手、JR東京病院勤務を経て1988年に渡辺医院開業。日本耳鼻咽喉科学会専門医。日本耳鼻咽喉学会・日本めまい平衡医学会所属。