原因別めまいの治療法
めまいは、さまざまな原因によって起こります。
そしてめまいをどのように治療していくかは、めまいの原因によって異なります。
今回の記事では、原因ごとのめまいの治療法をご紹介します。
良性発作性頭位めまい症の治療
良性発作性頭位めまい症は、三半規管の中に耳石が迷い込んで起こります。
そこで、その石が三半規管から出ていけば、めまいも治まることになります。
また、めまいが起こる姿勢をくり返していると、「慣れ」が生じて気にならなくなっていくことも知られています。
そうした特徴があるため、良性発作性頭位めまい症の治療は運動療法が中心になります。
頭位治療と寝返り運動
患者さんにフレンツェル眼鏡を着けていただいた状態で、医師が患者さんの頭の位置を動かします。
眼振の状態から三半規管のどこに石があるかわかるので、眼球の動きを観察しながら頭を動かして、石の排出を試みる治療です。
ただし、この治療で耳石が出てくれるとはかぎりません。
むしろ、患者さん自身が生活の中で怖がらずに体を動かし、石の排出を促したり、その状態に慣れたりすることのほうが重要です。
良性発作性頭位めまい症の方に向けた「めまい体操」がいろいろ勧められていますので、そうした体操を行うのもよいと思います。
私自身は、簡単にできて効果が高いことから、意識的に「寝返り」をうつことをお勧めしています。
めまい体操の中にも、寝返りをして頭の位置を動かす運動が含まれています。
いつも頭を同じ向きにしておかず、いろんな方向に動かすことが、良性発作性頭位めまい症の治療にも、予防にもなるのです。
良性発作性頭位めまい症の治療では、薬を使うこともありますが、補助的な位置づけです。
めまいの発作を抑える薬はあまり使わず、内耳の機能を改善する抗めまい薬や、発作に対する不安を和らげる抗不安薬を補助的に使用します。
エプリー法を使用するとほかの医療機関で治らないめまいがたちどころに改善します。
前庭神経炎の治療
前庭神経炎は、嘔吐とともに激しい回転性のめまいが起こり、その「急性期」が2~3日続く病気です。
その間は、めまいを抑える薬や吐き気止めを処方し、安静を保ちます。
ひどいケースでは入院も考慮したり、ステロイド薬で内耳の炎症を抑えたりすることもあります。
「急性期」をすぎて普通の生活に戻っても、軽いめまいやフワフワする感覚がしばらく続きます。
その間は、症状に合わせて内耳の血流をよくする循環改善薬や、抗不安薬を処方します。
前庭神経炎の場合も、めまいが軽くなったら積極的に運動して、めまいに慣れていくリハビリが勧められます。
メニエール病の治療
メニエール病は、内耳のリンパ液が増えすぎた状態なので、薬物療法として、循環改善薬のほか、「水はけ」をよくする利尿薬などが用いられます。
また、めまいの発作を抑えるために抗めまい薬を使ったり、難聴の悪化を防ぐためにステロイド薬を使ったりすることがあります。
ちなみに、メニエール病の疑いがある患者さんに処方される利尿薬イソソルビド(商品名イソバイド)を、私は片頭痛がらみのめまいなど少し広い範囲に応用して効果を実感しています。
「メニエール病にはストレスが関わっている」とよく指摘されますが、現代人には、ストレスによって内耳の血流が悪化し、メニエール病に近い「内耳のむくみ」を起こしかけている人が少なくないのかもしれません。
近年注目の水分摂取療法
従来、メニエール病の人は水分の摂取を控えたほうがよいと考えられていました。
しかし私は、メニエール病の患者さんに積極的に水を飲むように指導しています。
「水分摂取療法」と呼ばれる治療法です。
この画期的な治療法は、北里大学の長沼英明教授(神経耳科学)らが十数年前に始められたものです。
男性で2リットル以上、女性なら1.5リットル以上の水分を毎日飲むという生活療法です。
脱水状態や強いストレスがかかった状態になると、私たちの体内では尿の出を抑える抗利尿ホルモンが増加します。
ところが近年、抗利尿ホルモンが増えると内耳のリンパ液が過剰になるという研究結果が出てきたのです。
それにヒントを得た長沼先生は、水分をたっぷり取れば抗利尿ホルモンが抑えられ、内耳に水がたまりにくくなると考えたそうです。
その効果には、実に刮目すべきものがあります。
100人以上のメニエール病の患者さんを対象にした研究で、めまいを起こさなくなった人が95%、聴力の改善例が30%にものぼり、65%の人は聴力の低下が防げたということです。
長沼先生らは、すでにこの水分摂取療法を「良性発作性頭位めまい症」にも応用し、よい手ごたえを得ておられるようです。

渡辺医院院長 渡辺繁
東大病院耳鼻咽喉科助手、JR東京病院勤務を経て1988年に渡辺医院開業。日本耳鼻咽喉科学会専門医。日本耳鼻咽喉学会・日本めまい平衡医学会所属。