耳鳴りの治療でも用いられる認知行動療法とは
耳鳴りに悩む患者さんの中には、不快な音が頭の中で聞こえているということに加え、目に見える症状がなく、他人になかなか理解してもらえないという、ストレスを抱えている方もいらっしゃいます。
このストレスが耳鳴りを悪化させ、気持ちが塞いでしまったり、不安な気持ちに苛まれたりしている方も多いのではないでしょうか。
こうした悪循環を断ち切るためには、耳鳴りの治療とともに、耳鳴りに対する考え方を変える必要があり、これに有効なのが認知行動療法です。
本コラムでは、耳鳴りの治療に用いられる認知行動療法についてご紹介します。
耳鳴りに悩む患者さんの心理
耳鳴りに悩む患者さんの中には、長く続く症状、改善しない症状によって、体だけでなく心にもダメージを負ってしまっている方が少なくありません。
つらい症状によって日常生活に支障をきたし、「この耳鳴りは永遠に続くのではないか」「もう治らないかもしれない」などと、ネガティブな考え方になってしまっているかもしれませんし、あるいは耳鳴りのある生活を「地獄のような毎日である」と認識してしまっている方もいるでしょう。
こうした耳鳴りに対するネガティブな考え方や、誤った認識に気付き、普通の生活が送れるようにするための治療法が「認知行動療法」です。
耳鳴り治療における認知行動療法とは
認知療法とは、患者さんの認知に働きかけて、落ち込んだり、沈み込んでしまった心や気持ちを楽にする心理療法の一種です。
認知とは、考え方やものの受け取り方で、この場合は耳鳴りに対する考え方や認識と捉えてよいでしょう。
耳鳴りは他人になかなか理解してもらえないという側面を持っているため、患者さんはストレスを一人で抱え込んでしまいがちです。
ストレスを抱えることによって、前述のようなネガティブな考え方になってしまい、それが原因になって耳鳴りが悪化するという負のスパイラルに陥ってしまいます。
耳鳴りにおける認知行動療法とは、「耳鳴りそのものがつらいのではなく、耳鳴りによってもたらされる睡眠障害や不安感、ストレスがつらい」という正しい認識を、患者さんに持ってもらい、耳鳴りについてのネガティブな考え方を払拭することです。
そのためには、医師と患者さん自身が、現在抱えている問題(耳鳴り)を正しく理解し、問題を解決するための方法を見つけることが必要不可欠です。
治療においてカウンセリングを重視するTRT療法も効果的
患者さんと医師が密なコミュニケーションを交わし、耳鳴り治療を行うという点では、認知行動療法とTRT療法は似ているのかもしれません。
TRT療法とは、「耳鳴り再訓練法」あるいは「耳鳴り順応法」ともいわれ、医師によるカウンセリングと音響療法を組み合わせて行い、耳鳴りを消失させるのではなく、耳鳴りがある状態に順応することを目的とした治療法です。
TRT治療法について詳しくはこちら
TRT療法におけるカウンセリングでは、患者さんに耳鳴りや難聴のメカニズムを正しく理解してもらい、耳鳴りに対する不安を軽減することが目的となっています。
耳鳴りを治療するうえで、薬物療法や音響療法は非常に重要で効果的です。
しかし、そうした症状を軽減することに加え、患者さんの「気持ち・心」のケアを行うことが最も重要だといっても過言ではないのです。

渡辺医院院長 渡辺繁
東大病院耳鼻咽喉科助手、JR東京病院勤務を経て1988年に渡辺医院開業。日本耳鼻咽喉科学会専門医。日本耳鼻咽喉学会・日本めまい平衡医学会所属。