めまい・耳鳴りの原因のひとつ「片頭痛」は市販の薬では治らない?
「片頭痛とめまい」の記事でご紹介したように、めまい・耳鳴りで当院にいらっしゃる女性の患者さんは、ほぼ7割が慢性頭痛に悩まされているか、慢性頭痛の経験者です。
さらに、北里大学で教鞭を執られた坂井文彦教授(現埼玉国際頭痛センター長)らの疫学調査によると、なんと30歳代女性の5人に1人が片頭痛に悩まされているということがわかっているともお話ししました。
なぜこんなに多くの患者さんが片頭痛に苦しんでいるのでしょうか?
その理由のひとつに、片頭痛を自覚していても病院に行かず、市販の薬で対処しようとしていることが挙げられます。
今回の記事では、市販の薬と片頭痛の関係についてご紹介します。
7割の片頭痛患者は病院に行っていない
これだけ多くの方が悩まされている片頭痛ですが、病院で治療を受けている人は驚くほど少ないようです。
坂井文彦教授らの同じ調査によると、片頭痛の人のうち、病院に行って受診した経験がある人は30.6%。つまり、69.4%の人は病院で診てもらったことがないというのです。
しかも、30.6%の人が病院に行ったことがあるといっても、定期的に受診している人はわずか2.7%です。実際は、ときどき通院する人12・3%と、過去に通院したことがある人15.6%が含まれているのです。
海外のデータを見ると、頭痛での医療機関受診率は25~65%ほど、そして片頭痛と診断される割合は20〜50%程度となっています。米国では、日本とは逆に、片頭痛の人の約7割(女性だけだとそれ以上)に医療機関を受診した経験があると報告されています。
こうして見ると、わが国では片頭痛治療への意識がまだまだ低いと認めざるを得ないようです。その理由のひとつは、「片頭痛は治せる」というメッセージが、医療関係者から十分に発信されていないことではないかと思います。だから患者さんたちは、「いつものことだから」「家族みんな片頭痛だし」「どうせ病院に行っても治るはずがない」「病院に行って薬をもらっても、一時的に症状が軽減されるだけだから」などと決めつけ、あきらめてしまっているのでしょう。
実際、坂井先生らが「片頭痛」と判定した人のうち、自分が片頭痛だと気づいている人の割合は、わずか11・6%にすぎなかったということです。
もちろん、受診しない人たちが「大した頭痛ではないし、放っておいても大丈夫」と思っているというわけではありません。坂井先生らの調査結果でも、片頭痛の人の74.2%は、生活に支障があると考えています。
では、どうしているのかというと、56.8%の人が市販薬のみで対処しているというのが実態のようです。
しかし、私の診療経験だけでも、多くの患者さんの薬の使い方には、非常に問題があると言わなければなりません。薬を適切に使わないことで、薬物乱用頭痛という症状に陥ってしまうことがあるからです。
だんだん進行する「薬物乱用頭痛」とは
薬物乱用頭痛というのは、片頭痛の人が、鎮痛薬、頭痛薬を使いすぎることで、よりひんぱんに頭痛が起こるようになってしまった状態を指します。
片頭痛の方には、つらい発作を抑えたい気持ちから、知らず知らずに薬の服用量が増えていくケースが少なくありません。しかし、限度を超えて薬を使うと、だんだん痛みに過敏になって、薬の効きが悪くなってしまいます。
単一成分の鎮痛薬なら月に15日、その他の頭痛薬(市販薬のほとんど)なら10 日の服用が限度で、それ以上の使用が3カ月以上にわたって続くと、乱用状態と診断されます。
乱用してしまっている薬をやめると、頭痛が改善します。しかし、患者さんにとって、急に薬をやめるのは不安です。その不安に勝つためにも病院に行って、医師の指示に従って治療してください。

渡辺医院院長 渡辺繁
東大病院耳鼻咽喉科助手、JR東京病院勤務を経て1988年に渡辺医院開業。日本耳鼻咽喉科学会専門医。日本耳鼻咽喉学会・日本めまい平衡医学会所属。