耳の不具合が原因のめまい
めまいにはさまざまな原因がありますが、大きく「耳に原因があるパターン」と「脳に原因があるパターン」に分けることができます。この記事では、「耳に原因があるパターン」についてご説明します。
耳のしくみを知っておこう
「めまいがしたら知っておきたい、めまいを引き起こすメカニズムを解説」の記事(※リンクお願いします)ではめまいが生じる理由を理解していただくために、耳と脳のしくみをご説明しました。
簡単に復習しましょう。
私たちがふだん「耳」と呼んでいる部位は、「外耳」という部分です。
耳たぶで集めた音波が外耳道を反響しながら取り込まれ、鼓膜を振動させます。
その鼓膜の奥には、「中耳」と呼ばれる部位があります。ここは、耳たぶで集めた音波を増幅して奥に伝える太鼓のような役目をします。
鼓膜の内側には3つの骨がつながっており、鼓膜が振動すると、これらの小さな骨が振動を増幅して伝えます。
中耳は、そのほか気圧を調節する役割と、細菌などを粘液でとらえて吸収し、耳の中を衛生的に保つ役割も持っています。
中耳炎は、中耳の粘膜の機能が乱れて起こる病気です。
中耳の奥には「内耳」があります。
ここは、耳の聞こえ具合(聴覚)と全身のバランス(平衡感覚)に深く関わっています。
蝸牛と三半規管、前庭の役割
まず、音が聞こえるしくみを解説しましょう。
内耳の前側の奥には「蝸牛」という器官があります。
中耳の耳小骨が増幅した振動は、この蝸牛に伝わります。
蝸牛の中はリンパ液(体液)で満たされていて、音の振動がリンパ液を揺らすと、その揺れを電気信号に変換して「蝸牛神経」という神経へと送り出します。
脳がその電気信号から音の情報を受け取り、音が「聞こえる」というわけです。
次に平衡感覚について解説します。
平衡感覚をつかさどる器官は、「三半規管」。
内耳の後ろ寄りでやや外側にあって、「前庭」という部位をはさんで蝸牛とつながっています。
三半規管は、半円形をした3つの半規管の総称で、これらはそれぞれ90 度ぐらいずつ傾いています。
こうしたつくりになっているため、縦・横・前後の回転を総合的に感じ取れるのです。
半規管の中はリンパ液で満たされています。
そして、前庭につながっているつけ根の部分で、有毛細胞がリンパ液の揺れを電気信号に変換し、前庭神経へと送り出すしくみです。
前庭の中には、2つの耳石器があります。
これを卵形嚢と球形嚢といいます。
耳石器は、直線的な動きや重力が加わると、その刺激を電気信号に変えて前庭神経に送り出す働きをしています。
耳の構造から見ためまい・耳鳴りの原因
以上を簡単にまとめると、内耳には、音を感じる蝸牛と、回転運動をとらえる三半規管、直線的な動きや重力をとらえる前庭(耳石器)があります。
つまり、耳という器官には、音を聞く働きのほかに、体の動きを感じてバランスを取る働きもあるわけです。
耳鼻科的に見ると、これらの感覚に異常があると、音の感じ方や平衡感覚に狂いが生じます。つまり、耳鳴り・めまいです。
蝸牛になんらかのトラブルが生じると、音の信号伝達に支障が生じることになります。
また、蝸牛のどこかで有毛細胞の調子が悪くなると、特定の周波数帯の音が聞こえにくくなります。それらが、耳鳴りの一因となります。
また、三半規管や前庭にトラブルが生じると、頭の動きに過敏になって目が回ったり、平衡感覚が鈍って体のバランスが取りにくくなったりするでしょう。それがめまいの一因だと考えることができます。
耳が原因でめまいを引き起こす4つの病気
耳に原因のあるめまいで主だったものは、「メニエール病」「良性発作性頭位めまい症」、それに、めまいを伴う「突発性難聴」です。
メニエール病は内耳に余分なリンパ液がたまって起こる病気で、言ってみれば耳の中のむくみです。
良性発作性頭位めまい症は、三半規管の中に前庭から耳石が迷い込んだ場合に起こります。
突発性難聴は、原因を特定することが難しい病気です。
これらのほかにも、カゼが治った後に内耳に炎症が残る内耳炎や、強く鼻をかんだ後などに起こりやすい外リンパろう(内耳のリンパ液が中耳に漏れてしまう状態)といった病気が、めまい・耳鳴りの原因になります。
内耳炎のうち、神経の炎症である「前庭神経炎」は、耳鼻科の病気としては比較的よく知られています。
①メニエール病
メニエール病という病名は、聞いたことのある方が多いのではないでしょうか。
前触れなく突然めまいの発作が起こり、耳が詰まったような感じがして、耳鳴りや難聴を伴う病気です。
メニエール病のめまい発作は、自分や周りのものがグルグル回っているような感じです。
めまいとともに低音が聞こえにくい難聴が起こり、多くの人は耳鳴りを感じます。
そのとき聞こえるのは「ザーッ」「ジーッ」という感じの低音です。
人によっては吐き気を伴い、実際に吐いてしまう人もいます。
めまいが止まると耳鳴りも治まります。
こうした発作をたびたびくり返すので、患者さんにとっては実につらいものです。
メニエール病の原因は、内耳にある蝸牛の中を満たしているリンパ液の量が、なんらかの理由で増えてしまうこと(ストレスとの関連が指摘されています)。
蝸牛が水ぶくれになってうまく機能しなくなり、めまいや耳鳴りを引き起こすのです。
メニエール病の治療は薬物療法が主体で、発作を抑える抗めまい薬や、内耳の状態をよくする利尿薬、循環改善薬などを処方します。
患者さんはめまい発作に意識が向きがちだと思いますが、めまいが治まっても聴覚に障害が残る場合が少なくありません。
思い当たる方は、早めに治療を始めていただきたいと思います。
②良性発作性頭位めまい症
良性発作性頭位めまい症は、めまいの原因として最も多く見られます。
この病気の特徴は、頭を動かしたときに回転性のめまい発作が起こることです。
急に振り向いたときや、寝ていた人が起き上がったときなどに、激しい回転性のめまいが起こります。
発作はだいたい数十秒で止まりますが、強いめまいなので、不安に感じる患者さんが多いようです。
良性発作性頭位めまい症は、半規管内にリンパの流れを乱すものが生じた結果、起こると考えられています。
最も多いのが、耳石器からはがれた耳石が半規管に入り込んだ浮遊耳石(半規管結石)です。
頭を動かすと、その動きによるリンパの流れのほかに、浮遊耳石の移動による流れも生じるため、めまいが起こります。
また、はがれた耳石が半規管内に沈着することも、めまいの原因となります。
このめまいは、内耳のトラブルが原因ですが、耳鳴りや難聴は伴いません。
頭を動かすことで生じるめまいのため、めまいが起こる姿勢を繰り返しているうちに、慣れが生じて気にならなくなっていきます。そのため、運動療法が中心の治療となります。
③突発性難聴
突発性難聴の多くは、あるとき突然、片耳がほとんど聞こえなくなるといった表れ方をします。両耳に同時に表れることもあります。
難聴というと、加齢による難聴が多いのですが、突発性難聴は年齢に関係なく発症します。
40歳代から60歳代の人に多く起こり、男女による差はほとんどありません。
患者さんの多くは耳鳴りを訴え、だいたい半数の方にめまいが起こります。
めまいはグルグル目が回る回転性のもので、吐き気を伴うこともあります。
突発性難聴は、検査をすると、内耳に問題が生じた「感音性難聴」だとわかります。
難聴は、大きく分けると「伝音性難聴」と「感音性難聴」に分かれます。
音を内耳に伝える外耳と中耳に問題が生じて起こるのが伝音性難聴で、内耳に何かしらのトラブルが生じて起こるのが感音性難聴です。
感音性難聴は伝音性難聴に比べて治りにくいとされますが、突発性難聴の場合は早めに治療を始めれば(1週間が目安)、完治する可能性もある病気です。
ほうっておくと高度の難聴が残ってしまうので、早めに治療を受けてください。
突発性難聴の原因としては、ウイルスの感染や、内耳の血流障害などが考えられていますが、まだはっきりとはわかっていません。
強いストレスを抱えているとウイルス感染や血流障害も起こりやすいので、生活を見直してみることも必要かもしれません。
④前庭神経炎
前庭神経炎も、突然、立っていられないぐらい激しい回転性のめまいを引き起こす病気です。
そのめまいは、頭を動かしたときだけでなく、じっとしていても続きます。
耳鳴りや難聴は起こりませんが、吐き気や嘔吐を伴います。
発作は突然起こり、数日間続くのが特徴です。
その間は起き上がることができず、食事を取ることが困難になります。
めまいが起こるのはたいてい一度だけで、治まってしまってから何度もくり返すようなことはほとんどありません。
ただし、激しい発作が治まってからも、しばらく軽いめまいが数カ月続くことがあります。
前庭神経炎は、文字どおり前庭神経に起こる炎症で、それによって平衡感覚に関わる信号を送る機能が障害されてめまいが起こると考えられています。
カゼをひいた後に起こることが多いので、原因はウイルス感染だとする説が有力です。
しかし、はっきりとわかっているわけではありません。
前庭神経炎の発作時は、安静にして薬物療法で症状を緩和します。
激しい発作の場合には、入院していただく患者さんもいます。
その後、軽いめまいが続く間は症状に応じた薬を服用します。
ただし、めまいや耳鳴りの原因になるのは、耳に起こるトラブルだけではありません。
聴覚や平衡感覚には、内耳から電気信号を伝える神経や、その信号を受け取る脳の状態も関わっています。
内耳から脳に音の情報を伝えるのは蝸牛神経、体のバランスに関わる情報を伝えるのは前庭神経です。この蝸牛神経と前庭神経は、ともに8番目の脳神経として「聴神経」(内耳神経)を形成しています。

渡辺医院院長 渡辺繁
東大病院耳鼻咽喉科助手、JR東京病院勤務を経て1988年に渡辺医院開業。日本耳鼻咽喉科学会専門医。日本耳鼻咽喉学会・日本めまい平衡医学会所属。