最も怖いのは脳の疾患によるめまい
めまいの原因はさまざまありますが、最も怖いのが脳の疾患によるめまいです。
今回の記事では、脳で発生するめまいの原因についてご紹介します。
神経の連絡から見ためまい・耳鳴りの原因
聴神経(蝸牛神経、前庭神経)を含む脳神経の多くは、大脳と小脳の仕切りになっている「小脳テント」と呼ばれるところから始まっています。
このあたりには、脳と脊髄を結ぶ脳幹(間脳、中脳、脳橋、延髄)のうち、中脳が位置しています。
この中脳というところには、さまざまな反射の中枢があり、聴覚や視覚信号の中継ポイントでもあります。
例えば、前庭神経から伝わったバランスに関わる信号は、大脳を経由せずに、中脳から脊髄の運動神経にダイレクトに伝わります。
それによって、私たちは体の傾きを意識していなくてもスムーズに立ったり歩いたりできるのです。
また中脳は、体のバランスに関わる信号のほか、聴覚や視覚情報に関わる信号も中継しています。
このことにも大きな意味があります。
例えば、私たちは頭を動かしたとき、無意識に眼球を動かして、同じものを見続けることができます。
こうした反射のおかげで、耳で感じている頭部の傾き(バランス)と、目の動きもうまくリンクしているのです。
目と耳が連動する反射のおもしろい例として、前庭反射と呼ばれている現象があります。
どちらかの耳に冷たい水をたくさん入れると、私たちの眼球は自然とその反対側を向きます。
一方、これが温かい水だと、耳に温水を入れた側を向くのです。
少し回りくどい説明になったかもしれませんが、ここで押さえておきたいことのひとつは、耳からの情報を伝える前庭神経が、運動神経や反射の中枢につながっていることです。
そして、体のバランスには、耳で得られる情報だけでなく、目から得る情報も関係しています。
したがって、めまいを起こす要素としては、内耳にある感覚器の異常のほかに、脳神経や目の状態も関わっているということになります。
実際に、めまいを起こしたとき、私たちの目はフラフラと回っていることがあります。
これを「眼振(眼球振盪:がんきゅうしんとう)」といいます。
耳鳴りについては目の状態は直接関係しませんが、めまいには、耳そのもののほかに、脳神経の状態が関わっている可能性があります。
「脳」が原因でめまいを引き起こす3つの病気
めまいや頭痛が起こっているとき、最も気をつけたい脳血管のトラブルといえば「脳卒中」です。
脳卒中は、脳の血管の一部が詰まる「脳梗塞」と、脳の血管の一部が破れて出血する「脳出血」に分けられます。
大きな脳梗塞や脳出血が起こると、最悪の場合、死に至る危険があるのはご存じのとおりです。
①小脳梗塞
めまいの原因のうち、脳卒中が占める割合は微々たるものですが、診断をする際に、「脳卒中でないこと」をまず見分けることは重要です。
脳梗塞と脳出血は、いずれも怖い急性疾患ですが、現代人に多いのは脳梗塞のほうです。
すぐ命に関わるような脳梗塞は、意識を失ったり手足のしびれを訴えたりするので、一般の方でも「脳梗塞の発作かもしれない」とわかります。
ですが、すぐにはわからないような小さな脳梗塞はもっとひんぱんに起こっています。
小脳梗塞は、複数の場所にできたり、くり返したりしているうちに大きな発作と同様の障害をもたらす場合があります。
ですから、甘く見ることはできません。
特に年配の方ですと、そうした「小脳梗塞」が起こりやすいので、私も常に意識して診察し、疑いがあるときには必ずMRI検査を行うようにしています。
②脳動脈瘤
また、脳出血の予防という観点からは、「脳動脈瘤」がないかも、常に気をつけている点です。
「脳動脈瘤」というのは、動脈にできるコブです。
脳にはたくさんの動脈がありますが、その壁の一部が弱くなると、そこが小さな風船のようにふくらんで、血管にコブを形成することがあります。
当然、このコブが破裂すると脳出血を起こしてしまいます。
小さな脳動脈瘤が、すぐに出血などのトラブルを起こすことは通常ありませんが、検査をして脳動脈瘤が見つかった場合は、その後の経過に気をつける必要があります。
その場合は、脳外科に経過観察を依頼しています。
ちなみに、脳動脈瘤が最もできやすいのは、脳底部と呼ばれる脳の下のほうです。
脳の下部には、脳に血液を送り届けている重要な動脈が通っています。
ここの血流が一時的に不足すると、「椎骨脳底動脈循環不全」といって、めまいの原因のひとつになります。
こうした動脈の血流不足が、めまいやふらつきにつながるのは、前庭神経の信号を受け取る脳幹の働きが悪くなるからです。
これ以外に、貧血や、急激な血圧の変動(低血圧、高血圧)、心臓のトラブルである不整脈(脈拍の乱れ)などがめまいの原因となり得ます。
こうした脳血管のトラブルは、めまいの原因になると同時に、頭痛にも深く関わっています。
③聴神経腫瘍
そして、もうひとつ、めまいの原因となる怖い脳のトラブルがあります。
「脳腫瘍」です。
そのうち、めまいや耳鳴りの原因となることが多いのは、前庭神経に発生することが多い「聴神経腫瘍」で、脳腫瘍全体のおよそ10%を占めています。
聴神経腫瘍は良性ですが、腫瘍ができた側にやっかいな難聴や耳鳴りを引き起こします。
めまい・耳鳴りを診断する際、特に年配の方の場合には、私も以上3つの病気(小脳梗塞、脳動脈瘤、聴神経腫瘍)にはよく注意するようにしています。
以上のように、めまい・耳鳴りの原因となる病気はいろいろありますが、特に危険なのは、脳由来の症状で、中には見抜くのが難しいものもあります。
めまい・耳鳴りには自己診断で対処するのではなく、まずは専門医を受診して、診断や検査を受けると大きな安心材料になるはずです。

渡辺医院院長 渡辺繁
東大病院耳鼻咽喉科助手、JR東京病院勤務を経て1988年に渡辺医院開業。日本耳鼻咽喉科学会専門医。日本耳鼻咽喉学会・日本めまい平衡医学会所属。