耳鳴りのつらさを改善することが期待できる抗うつ薬とは
厚生労働省の発表によると、日本人は、生涯に約15人に1人がうつ病を経験するとされています。
うつ病は決して、特別な病気ではないのです。そして、うつ病は耳鳴りとも深い関係を持つ病気です。
今回は、うつ病のメカニズム、耳鳴りとうつ病の関係、耳鳴りと抗うつ薬について解説します。
耳鳴りとうつ病の関係
耳鳴りとうつ病――もしかすると、一見無関係に感じられるかもしれません。
ですが実は、重い耳鳴りを持っている患者さんは、うつ病を発症するケースが少なくないのです。
どうして重い耳鳴りとうつ病がかかわりあっているのでしょうか。
その理由のひとつに、耳鳴りによって生活の質が大きく低下してしまうことが挙げられます。
耳鳴りによって常に音が聞こえていること、相手の声が聞こえづらく、会話が円滑に進まないこと、寝付けないこと……こうしたことがストレスになり、不安や落ち込み、そしてうつ病を生み出すのです。
耳鳴りに悩む患者さんのうち最大78%が不安・抑うつ状態であるという調査結果や、最大80%が睡眠障害を持っているというデータもあります。
心がつらい状態のままでは、耳鳴りによるつらさも増してしまい、治療の効果も上がりません。
耳鳴りのつらさをやわらげるには、心のつらさをやわらげることも、とても重要になるのです。
うつ病が引き起こされるメカニズム
では、うつ病はどうやって治療していくのでしょうか。
その前に、うつ病がどのようなメカニズムで発症するのかご説明します。
私たちの脳には、さまざまな神経伝達物質があり、情報を伝える役割を担っています。
神経伝達物質のうち、セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンを総称してモノアミンといいますが、このモノアミンとうつ病の関連が指摘されています。
うつ病は、モノアミンが減ることで引き起こされるという説です。とくにセロトニンは、精神状態を大きく左右するものとして知られています。
つまり、セロトニンが減らなければ、うつ病になる可能性を減らせるということです。では、どうすればセロトニンを増やすことができるのか。
生活習慣の改善によってある程度増やすことができます。現代の研究では、運動すること、日光を浴びること、ナッツを食べることなどが効果的だと言われています。
しかし、うつ病が発症したら生活改善だけでは治療できるとは限りません。
抗うつ薬などを処方して、薬物療法による治療も並行して行われます。
抗うつ薬で、耳鳴りの改善も期待できる
耳鳴りによって外来された方にうつ症状があらわれている場合、心療内科や精神神経科を紹介して診療してもらい、抗うつ薬が処方されることがあります。
抗うつ薬の一例としては、以下のようなものが挙げられます。
・アミトリプチン(トレドミン)
・セルトラリン(ジェイゾロフト®)
・アモキサピン(アモキサン®)
・パロキセチン(パキシル)
・ミルナシプラン(トレドミン)
・デュロキセチン(サインバルタ®)
抗うつ薬は、効果がみられるまで少し時間がかかります。服薬の判断は医師によらねばなりません。
医師の指示なしに服用したり、服用をストップしたりしないようにしてください。
抗うつ薬によって気持ちが楽になれば、耳鳴りの苦痛も改善されることが期待できます。
抗うつ薬の副作用としては、眠気、ふらつき、倦怠感、吐き気が挙げられます。
耳鳴りの症状が引き起こすパニック症状は、抗不安薬で軽減を
耳鳴りの症状によって気分が落ち込んだ結果、パニック状態が引き起こされることがあります。
その状態を落ち着かせるため、心療内科や精神神経科を紹介して診療してもらい、抗不安薬が処方されることがあります。
抗不安薬の一例としては、以下のようなものが挙げられます。
・クロチアゼパム(リーゼ®)
・エチゾラム(デパス®)
・アルプラゾラム(コンスタン®、ソラナックス®)
・ロフラゼプ酸エチル(メイラックス®)
服用の仕方によっては、依存性を生じることがありますので注意してください。
また抗不安薬を長期間服用したあと、急に服用をストップすると、精神的・肉体的に離脱症状があらわれることがあります服用する際も、服用をストップする際も、必ず医師に相談するようにしてください。
抗不安薬の副作用としては、眠気やふらつき、倦怠感が挙げられます。
「SSRI」系の抗うつ薬が、耳鳴り治療に効果あり⁉
抗うつ薬の中で、耳鳴り治療に効果が高いとして近年注目されているのが、「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」(SSRI:selective serotonin reuptake inhibitor)と呼ばれるものです。
これは、脳内のセロトニンを増やす働きがあります。
ある研究で、SSRIを処方している、うつ傾向のある耳鳴りの患者さん56人を調査したところ、耳鳴りによる苦痛の改善に大きな効果があることがわかりました。
もしかしたら近い将来に、うつ病を合併した耳鳴りの患者さんに対する標準的な治療薬が誕生するかもしれません。
今後、さらなる研究が期待されます。