若い人に特有の難聴・耳鳴りの症状「音響外傷」とは

難聴・耳鳴りは高齢者のもの、と決めつけていませんか?
実は若い人に特有の難聴・耳鳴りもあるのです。
今回は、若い人にも起こりえる難聴・耳鳴りについて解説します。
若者の難聴・耳鳴りの原因
実際、20~30代の若者の難聴・耳鳴りが急増しているといわれています。
どうして若者に難聴・耳鳴りが起こるのでしょうか。
その原因として指摘されているのが、音楽プレーヤーの普及です。
携帯型音楽プレーヤーが普及し、それに伴い、高機能のイヤホンやヘッドホンが若者世代に浸透しました。
若者の多くが、電車に乗っているときや、ジョギングをしているとき、図書館で勉強をしているときなどにイヤホンをして音楽を聞いています。
雑音がある屋外や人混みの中で聞いているときには気にならなくても、室内に足を踏み入れた途端、イヤホンから流れる音量の大きさに驚くことがあるでしょう。
知らず知らずのうちに、大音量の音楽に慣れてしまっているのです。
世界保健機関(WHO)は、イヤホンを使い、大音量の音楽を長時間聞き続けることが、難聴・耳鳴りの原因の一つだと指摘しています。
加えて、世界の中所得国以上で暮らす12~35歳のうち実に11億人もが、「ヘッドホン難聴」になる可能性があると警告しています。
ライブも難聴・耳鳴りの原因に
若者の難聴・耳鳴りの原因は、イヤホンだけではありません。
ライブやクラブもまた、原因となっています。
ライブやクラブに行った後、音が聞こえにくくなった経験がある人も多いでしょう。
ライブやクラブの後の難聴・耳鳴りはすぐに消えるケースがほとんどですが、近年、若い人を中心に、難聴・耳鳴りがすぐに消えず残り続けるケースが増えてきています。
ライブなどによって生じる難聴・耳鳴りを、「音響外傷」といいます。
音響外傷は、大音量の音を聞いたことによって生じるもの。
大音量の音を聞くと、内耳にある蝸牛の細胞が壊され、難聴・耳鳴りを引き起こします。
通常は、時間の経過とともに細胞が修復され、元に戻ります。
ライブやクラブでは、いちどきに細胞が壊されます。
対して音楽プレーヤーによる難聴・耳鳴りは、じわじわと進んでいくのです。
音響外傷にならないためにできること
耳の機能の低下が原因ではない音響外傷は、予防することができます。
イヤホンを使うときは、周囲がにぎやかであっても、極端にボリュームを上げることは避けましょう。
ライブやクラブに行くときは、音量に配慮し、こまめに休憩をとることを心がけるようにします。
大きな道路のそばや工事現場など、騒音が激しい場所に長時間いなければならないときは、耳栓をするというのも一つの手です。
また、体調を整えておくことも重要です。
疲れているときや寝不足のとき、アルコールを摂取しているときは、特に耳へのダメージが大きくなります。
ライブやクラブにお酒はつきものですが、ほどほどにしておくことをおすすめします。
大きな音を聞く時間には上限がある
では、どの程度であれば、難聴・耳鳴りを引き起こさずにすむのでしょうか。
WHOは、以下の許容時間を発表しています。
・ライブやコンサート(ロック)・・・28秒
・ドライヤー・・・15分
・車のクラクション、地下鉄・・・15分
・バイク・・・47分
・音楽プレーヤー・・・1時間
・自動車・・・8時間
どれも日常で触れる機会がある音ばかりですが、それぞれの許容時間が意外なほど短いことに驚いた方も多いでしょう。
自動車の騒音に8時間さらされ続けることはほとんどないでしょうが、他の音に関してはありえない数字ではありません。
このように、人の耳はあなたが思っている以上に敏感で、繊細な器官なのです。
音響外傷は病院に行くべき?
前述の通り音響外傷は、よほど酷い状態でない限り、すぐになくなります。
しかし、長期間に渡って大音量で音楽を聞き続けてきた人や、工事現場などで騒音にさらされ続けた人の中には、耳鳴りを感じた翌日以降にも耳が痛かったり音が聞こえにくいという人が増えています。
その場合には、思いのほか耳がダメージを受けていることが考えられますので、耳鼻咽喉科の受診をおすすめします。

渡辺医院院長 渡辺繁
東大病院耳鼻咽喉科助手、JR東京病院勤務を経て1988年に渡辺医院開業。日本耳鼻咽喉科学会専門医。日本耳鼻咽喉学会・日本めまい平衡医学会所属。